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横浜地方裁判所 平成2年(ワ)1349号 判決 1992年10月23日

原告

冨田徳正

ほか一名

被告

高橋耕造

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告高橋耕造は、原告冨田徳正に対し、一五二二万八七一一円及びこれに対する平成二年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告高橋耕造は、原告冨田ちよに対し、五四六万八四一一円及びこれに対する平成二年六月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告日新火災海上保険株式会社は、原告冨田徳正に対し、三三七万円及びこれに対する平成二年六月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  被告日新火災海上保険株式会社は、原告冨田ちよに対し、一九五万円及びこれに対する平成二年六月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、軽貨物自動車に普通乗用自動車が追突した事故について、被害車両の運転者と同乗者である原告らが、加害車両の所有者であり運転者である被告高橋耕造に対し民法七〇九乗、自賠法三条に基づき損害賠償を、自賠責保険の契約会社である被告会社に対し自動車損害賠償責任保険金をそれぞれ請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

日時 昭和六二年六月七日午前九時四〇分ころ

場所 横浜市港北区岸根町四二一番地先交差点

加害車両 普通乗用自動車(横浜五四そ三八五二)

所有者及び運転者 被告高橋耕造

被害車両 軽貨物自動車(横浜四〇た八〇五一)

運転者 原告冨田徳正

同乗者 同冨田ちよ

態様 右事故場所の交差点で赤色信号に従つて停止していた被害車両に加害車両が追突した。

2  被告高橋耕造の責任

被告高橋耕造は、本件交差点に差し掛かつた際、既に進路前方の信号機が赤色を表示しており、被害車両を含め同一方向に進行する車両はいずれも停止していたのであるから、直ちに停止すべきであるのにこれを怠り被害車両に加害車両を追突させた過失により本件事故を惹起した。

被告高橋耕造は、本件事故当時加害車両を所有して事故の運行の用に供していた。

3  原告らの治療経過

(原告冨田徳正)

事故当日である昭和六二年六月七日、済生会神奈川県病院で診察を受け、頭部打撲と診断され、同病院に同月一五日まで通院した。

この間の同月九日、二宮整形外科で診察を受け、頭頂部打撲、頸椎捻挫(外傷性頸椎症)、腰椎捻挫と診断され、以後同病院に入通院して平成二年五月二二日症状固定とされた。

(原告冨田ちよ)

昭和六二年六月二二日、二宮整形外科で診察を受け、外傷性頸椎症、胸椎捻挫と診断され、以後同病院に通院を続け平成二年五月二二日症状固定とされた。

4  被告日新火災海上保険株式会社は、自動車損害賠償責任保険の契約会社である。

原告らは、自動車損害賠償責任保険の支払いを求めたところ、被告高橋耕造が加入している神奈川県共済農業協同組合連合会から支払いを拒絶された。

二  争点

原告らは、本件事故により受傷したか

第三争点に対する判断

一  証拠(乙五の4。5、乙六、七、九、一〇、証人二宮浩)によれば、原告冨田徳正については、頭部レントゲンを始めとする各種検査結果は、いずれも異常所見が認められず、結局同原告が受けた診断及び治療は、同原告の主訴に基づきこれに対応するものとしてなされたにすぎないこと、原告冨田ちよについても、その主訴に基づきこれに対応する治療行為がなされたにすぎないことが認められ、原告らが前記第二の一の3の各診断を受け、これに対応する治療がなされた事実等から直ちに原告らが受傷した事実を認定することはできない。

二  そこで、本件各車両の損傷の程度、原告らが受けた衝撃の程度などから、原告らが本件事故によつて受傷する蓋然性の有無を検討する。

証拠によれば以下の事実が認められる。

1  被害車両はオートマチツク車であり、本件事故当時、原告冨田徳正は運転席でシートベルトをしてブレーキを踏んだ状態であり、原告冨田ちよは助手席にシートを少し倒した状態で座つていた(原告冨田徳正)。

2  本件事故当時、被告高橋耕造が被害車両に接近していることに気づきブレーキをかけてから追突するまでの距離は、約二・五メートルであり、事故現場路面にスリップ痕は認められなかった(甲八)。

3  本件事故により、被害車両は、リアバンパー、左リヤークオターパネル、リヤーエンドパネル、左リヤーサイドパネル等に損傷を受け、リヤーバンパーの取替えと左リヤークオーターパネル、リヤーエンドパネル、左リヤーサイドメンバー等の板金修理を施し、その修理費用は七万六三四〇円であつた(乙一)。

4  本件事故において、加害車両と被害車両のそれぞれの衝突部位の変形状況から判断される追突時の衝突速度は大きめにみて約七・五二kmと推定され、この速度で衝突した場合の被害車両に生ずる衝撃加速度は約一・三一Gである。そして、この加速度は、急ブレーキを掛けたときに車体に生ずる加速度〇・九Gの約一・五倍程度、遊園地の乗り物ブーメラン等に生ずる加速度三~六Gより低いレベルの加速度である(乙四)。

以上認定の諸点を総合考慮すると、原告らが本件事故によつて受けた衝撃の程度で受傷する可能性は極めて低いものといわざるを得ず、従つて、前掲各証拠から原告らが受傷した事実を認めることは証拠上なお不十分であり、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、原告らが本件事故により受傷したことを前提とした本訴請求はいずれも理由がない。

(裁判官 近藤ルミ子)

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